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パテントトロールを提訴する方法 (全3回:その3)

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今回はパテントトロールを提訴する方法に関する記事の3回目、最終回となります。この記事はパテントトロールを提訴する際使用できる2種類の請求原因のうち、その2を詳しくご紹介します。

  1. 民事裁判における RICO法に 基づく請求

これまで多くのNPEのターゲットとなった企業が、Federal Racketeer Influenced and Corrupt Organizations Act(通称RICO法)に基づき攻撃的なパテントトロールを民事訴訟で提訴することにより、自身の身を守る試みをしてきました。RICO法は本来組織犯罪を防ぐ目的で考案されましたが、この法律の範囲の広さと効果的な救済手段は、特許紛争に関しても民事の請求原因を与える上で有用なものと考えられています。

RICO法は合衆国法典第18編第96章第1962条(c)項に定められた規定により、「事業または財産に損害を受けた者」に連邦裁判所における民事裁判上の請求原因を与えることができます。民事のRICO法に基づく請求はNPEのターゲットとなった企業にとってとても魅力的なオプションではありますが、実際にRICO法が適用されるのにはいくつかのハードルが存在します。RICO法が適用されるためには、原告は被告の「事業による」「パターン化した」「ラケッティア活動(ゆすり行為)」を提示せねばなりません。「事業」とは、「いかなる個人、組合、法人、社団、もしくは合法的に組織された法的団体、および、法的団体でない、個人が事実上結合した集団」とされています(合衆国法典第18編第96章第1961条(4)項)。「ラケッティア活動(ゆすり行為)」のとは、恐喝、詐欺、有線通信を使った詐欺などの「前提となる犯罪(predicate acts)」が行われることとされ、さらに、「パターン化した」行為とは、「少なくとも2度反復されるラケッティア活動」とされています(合衆国法典第18編第96章第1961条(1)項)。加えて、RICO法に基づく請求は詐欺に関するものであるため、原告は連邦民事訴訟規則(FRCP)9条(b)項に従い、より厳格な請求基準を満たさねばなりません。

多くの特許紛争におけるRICO法適用の請求は、形式的な理由により裁判所から却下されています。これらの却下は、原告側が被告側の「パターン化した行為」や「前提となる犯罪」を明確に立証することができなかったことなどに由来します。これまで裁判所は「パターン化した行為」が存在するという原告側主張に対し、被告側の行為の期間の長さや[1]被害者の数が[2]「パターン化している」と定義づけるに不十分であるとして却下しています。「前提となる犯罪」(例:一般的に特許紛争では郵便、有線通信を使った詐欺行為やゆすり、恐喝など)については、これまである裁判所が、問題となる特許が発行される以前の行為に関しては、「前提となる犯罪」と定義づけるに不十分であるとしています。

In re Innovatio IP Ventures LLC事件( 921 F. Supp. 2d 903 (N.D. Ill. 2013))において、イリノイ州北部地裁はNoerr-Penington[3] 理論(ノア・ぺニントン理論)を用いて民事のRICO法適用を禁止することができると判決しました。同地裁は第7巡回区連邦裁判所の法令を引用し、ノア・ぺニントン理論は従来の独占禁止法に関する事件のみならず、特許権に関する事件にも適用されると定義しました(同p.911)。同地裁は同時に米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)の法令を用い、ノア・ぺニントン理論は訴訟前の催告書や他のライセンシングに関するやりとりにも適用されるとしました(同pp.912-913)。同地裁は、In re Innovatio事件と違い、ノア・ぺニントン理論が適用されない場合とは、NPEが「偽装の訴訟」を起こした場合であるとしています(同p.910)。

「偽装の訴訟」とは、「客観的に見て事実無根」であり、主観的には「政府の手続きを利用し、偶発的にではなく、直接的、積極的に競合会社の取引関係を妨害する試み」をするものと定義されています。同裁判所は、Innovatio社が「完全に事実無根で、分別のある訴訟当事者が自己に有益な救済措置を期待しえない」ような「偽装の訴訟」を起こしたとは見なされないと判決しました(同p. 917)。In re Innovatio事件がRICO法適用に関する新しい障害物となりえる一方で、特許訴訟におけるRICO法適用が他の裁判所でノア・ぺニントン理論により妨害されるかどうかはまだわかっていません。

興味深いことに、最近ある裁判所がNPE同士の特許訴訟においてRICO法に関する判決を下しました。Chinook Licensing DE LLC v. RozMed LLC et al.事件( No. 1:14-CV-00598 (D. Del. Dec. 18, 2014))において、裁判所は被告の送った催告書は、これをRICO法に基づき恐喝や詐欺と見なすには説得力に欠けると意見しました。原告のChinook Licensing社はこれまでに数多くのテクノロジー会社を提訴してきた一般的なNPEであり、一方で被告、Iron Dome社は、同社のウェブサイトによれば、「NPEによって提訴された特許訴訟を、従来の訴訟にくらべ短期間に低コストで終了させる」ことを目的とする会社と記されています[4]。Chinook社の訴えに対する却下は、RICO法に基づく請求が、それがNPEからの請求か否かにかかわらず、かなり厳しい基準を超えなければならないことを示しています。

上記の事件は民事訴訟におけるRICO法に基づく請求をすることの難しさを示しています。しかしながら、下記のように、RICO法適用が却下されなかった特許裁判も存在します(Lemelson v. Wang Labs., Inc., 874 F. Supp. 430 (D. Mass. 1994)。Lemelson事件では、マサチューセッツ州地裁が、訴権乱用をし資金や財産を強要することは、ラケッティア活動とみなされる可能性があると判断しました(同p.435)。この事件では、NPEであるLemelson社がターゲットとなった企業によるRICO法適用の請求を取り下げさせようとしたものです。ターゲットとなったWang Labs社の請求には、Lemelson社がいわゆる「サブマリン特許」を使い、郵便、有線通信を使った詐欺行為やゆすり、恐喝などのシステム化された違法行為により相手に訴訟のプレッシャーを与え、何百万ドルもをゆすり取ったと記されています(同p.432-435)。この事件は公判の直前に和解となりました。

これまでの判例法から、特許訴訟におけるRICO法適用の請求に対し、裁判所はNPEの行為が極端であり、システム化されていて、さらに長期間続いている場合は、「パターン化されたラケッティア活動」の存在を認める可能性があることがわかります。Lemelson事件は、企業がパターン化されたラケッティア活動による訴訟のプレッシャーを与えてきた場合には、民事のRICO法が適用される可能性を与えました。一方で、In re Innovatio事件から見てとれるように、ノア・ぺニントン理論適用によって「偽装の訴訟」を立証せねばならない場合もあることを頭に入れておいてください。

結論

これまでご紹介してきたように、現在ではNPEのターゲットとなった企業が州や連邦の裁判所で使用できる請求原因が2種類存在します。これらの請求原因は、NPEから特許権行使を受けたとき、NPEにプレッシャーを与えて和解または主張の取り下げを進めるための効率的な武器となりました。加えて、もしターゲットとなった企業がこれらの請求原因を使い勝訴した場合、NPEから損害賠償を受け取ることのできる可能性もあります。

 

[1] Hughes v. Consol-Pennsylvania Coal Co., 945 F.2d 594, 611 (3rd Cir. 1991) 事件:(12ヶ月の主張される詐欺期間はRICO法適用には十分でないとした); Jennings v. Auto Meter Prods., Inc., 495 F.3d 466, 474-75 (7th Cir. 2007) 事件:(10ヶ月は前提となる犯罪を立証するのには短すぎると判決)

[2] Jennings, 495 F.3d at 475-76 : 裁判所は唯一の証明できる被害者は原告のみであり、被害者が「米国特許商標庁とその使用者、納税者、さらに自動車部品市場に関係する者」という原告の定義づけは特定的でないとして却下。

[3] Noerr-Pennington主義とは本来独占禁止法に関する事件に用いられ、政府の機関に対し不正や苦情を訴えるものに(例:NPEによる特許権行使や特許権侵害の申し立て)損害賠償責任からの保護を与えるものである(In re Innovatio, 921 F. Supp. 2d at 910)。

[4]  IRON Dome, http://www.irondome.com (最終アクセス3/10/2015)


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